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-臨床心理学-

心理臨床面接
1.力ウンセリングとは
 カウンセリングという言葉は1900年頃から使われ始め、当初は相談・助言という意味合いで用いられていました。しかし、1942年にロジャーズが「カウンセリングと心理療法」を出版して以降、そこに治療的な意味が付加され、カウンセリングという言葉も一般的に知られるようになっていきました。つまり、言語的・非言語的なコミュニケーションを通して、個人の悩みの解決と成長のために心理的治療や援助を行うことがカウンセリングであるといえ、予防なども含めて考えられることが多くなっています。今日では、職業指導や就職のためのキャリア・カウンセリング、同じ悩みを持つ友人や仲間で行うピア・カウンセリング、先輩後輩や上司部下で行うライン・カウンセリングなど、カウンセリングの分野は多岐にわたっています。このように、専門家でなくともカウンセリングは可能ですが、心理的に深い悩みである場合は、専門家によるカウンセリングが必要となります。

2.臨床的面接の流れ
 カウンセリングや心理療法で用いられる面接を、臨床的面接といいます。カウンセリングでは、治療者をセラピスト、カウンセリングでは、治療を受ける者をクライエントと呼びます。
 臨床的面接は、インテーク面接とその後の治療的面接に分けられます。インテーク面接では、治療契約を結び、セラピストとクライエント双方の合意の元で進めていかなければなりません。インテーク面接の主な目的は情報収集で、最初に訴えてきた問題である主訴に耳を傾け、注意深く聞きとっていく作業が必要になります。それに力口えて重要なのが、ラポールの形成です。ここでの関係のよしあしがその後の面接に影響を及ぼすといっても過言ではありません。問題の理解には継続した面接が必要となることが多く、治療的面接において本来の問題(主訴)からずれていく場合もあります。言語化が難しいクライエントに対して芸術療法を用いたり、子どもには遊びを通しての遊戯療法(プレイセラビー)を用いることで、よりクライエントに則した理解が可能となります。また、治療同盟を確立し継続していくことで、面接が成立し終結へ向かうとも考えられています。
 治療回数に関しては、過去では200回も行う例も珍しくはありませんでした
が、現在では目標を明確にし、ある程度の改善がみられた時点で双方の同意の
上で終結となることが多いようです。

3.面接の構造化
 安定した治療関係と面接の成立のためには、しっかりとした治療構造が必要とされます。治療構造は、料金や時間などの外面的構造と、秘密の保持といった内面的構造に分けることができます。この治療構造があることで、現実的な制限や枠組みが与えられると同時に、セラピストとクライエント双方を周囲の圧力から守るという側面も生まれます。この枠がしっかりと守られることで、クライエントは安心して面接に臨むことができ、心的成長が促進されると考えられます。

カウンセリング【counseling】言語的・非言語的なコミュニケーションを通して、個人の悩みの解決と成長のために心理的治療や援助を行うこと。狭義では、心理療法や精神療法と同義とされるが、現在ではそれに加えて予防などもカウンセリングの役割と考えられることが多い。

キャリア・カウンセリング【carrier counseling】職業指導や就職のための指導。ガイダンスとよばれることも多い。もともとカウンセリングとはこのことを指していた。

セラピスト【therapist】何らかの心理療法を用いて治療を行う人のこと。心理臨床家、心理療法家、カウンセラーとも呼ばれることもある。

クライエント【client】心理療法を受ける人のこと。医療分野においては患者とよばれるが、心理的場面においては必ずしも(病を)患っている人が来談するわけではなく、患者という言葉が医師に対して使われることなどから、クライエント(顧客)という言葉が用いられる。

インテーク面接【intake interview】最初に行われる面接のことで、主訴やクライエントが抱えている問題の概要を明らかにしていくことが目的。治療契約の確認もここで行われる。

治療的面接【therapeutic interview】インテ〜ク面接に継続して、主訴の解決のために行われる面接のこと。心理療法にもよるが、現在では長期にわたる面接よりも、ある程度主訴が解決した時点で終結となることが多い。

治療契約【therapeutic c・ntract】治療の開始にあたってセラピストとクライエントの間で行われる治療方法や料金などの取り決めのこと。また、治療の流れや治療関係でのお互いの役害1」、治療の目標ということについて、双方が合意をもつことも含まれる。

主訴【chief c・mplaint】インテーク面接において、クライエントが主に訴える内容を指すことが多い。ただし、面接が進む中で主訴が変わったり、本来話し合うべき内容へと焦点がずれていくこともある。そのため、セラピストは常に見立てを行い、主訴を確認しながら面接を進めていくことが求められる。

ラポール【rapport】カウンセリングをはじめとする心理療法において、治療者とクライエント間で形成される、暖かく親密な信頼関係のことを指す。カウンセリングにおいて、クライエントの次回来談のモチベーションを高め、治療を効果的に進めるためには良好なラポールの形成が必要であると考えられており、非常に重要視されている。カウンセリングに限らず、心理検査(特にWAISやロールシャッハなどの侵襲性の高いもの)を施行する際にも、ラボールの形成が重要視されている。

遊戯療法/プレイセラピー【play therapy】子どもを対象に、遊びを通して行う心理療法。アンナ・フロイト(FreudA)クライン(Klein,M.)によって始められた。遊びは子どもの内的な世界を表現するのに適しており、プレイルームでセラピストとの温かい治療関係の中で誰にも介入されずに自由に遊ぶことによって、内的な葛藤の解決や自己成長が促進される。アクスライン(Axline,V.M)は、セラピストの取るべき「8つの原理」を提唱している。

治療同盟【therapeutic alliance】セラピストとクライエントの協力や共同作業を示す概念。作業同盟ともよばれる。治療同盟が適切に確立され継続していくことで、治療が進み終結へむかうとされる。

治療構造【structure・f psychotherapy】治療関係を規定する交渉様式(セラピストとクライエントの人数や、報酬、時間など)及び治療関係の構造。場面設定や時間などの構造を外面的構造、面接での目標、秘密の保持や暗黙の了解事項(非暴力や倫理的常識)などの構造を内面的構造と呼ぶ。治療構造そのものに、セラピストとクライエントの存在と関係を支える、転移・逆転移を促進させる、境界を明確にするなどの治療的な機能があると考えられている。治療構造は現実的な制限や枠組みという側面を持つが、一方でセラピストとクライエントを周囲の圧力から守り、その守られた治療環境の中でクライエントの心理的成長が促進される側面も持つ。

--豆知識--
カウンセリングは最初「教育相談」を意味していました。

精神分析的心理療法
 精神分析の誕生

 ジグムント・フロイト(Freud,S.)は、オーストリアのウィーンの神経科医でした。ブロイラーやシャルコーに学び、はじめは催眠によって治療を行ってましたが、催眠が依存を強くすることを危惧した彼は、前額法という方法で治療を始めました。そのあと、自由連想法による精神分析へと治療法は発展を遂げました。精神分析理論では、性的欲動であるリビドーが生の根源(工日ス)であると考えられ、心的装置に意識、前意識、無意識の三つの領域があるとしたことを局所論と呼びました。しかし、心の働きから心的装置を考えると局所論は必ずしも十分でないことが明らかになり、新たに心にイド(エス)、自我、超自我を想定し、これを構造論と呼びました。また、超自我の検閲により、苦痛な感情を引き起こすような受け入れがたい観念や感情が無意識に抑圧されるとし、これを自我の防衛として捉えられました。
 フロイトは、抑圧を中心とした自我の防衛機制の概念を明らかにし、神経症症状を無意識に抑圧されたコンプレックスが形を変えて現れたものであるとしました。無意識を意識化することで神経症症状が治癒されると考え、心に浮かぶことをそのまますべて話すことで、隠された無意識が現れるとする自由連想法と解釈による洞察の概念を提唱しました。しかし、無意識に直面することはクライエントにとってつらいことであり、そのためそれを防衛するために、治療の過程で抵抗や転移となって現れます。これに対して治療者は、技法的に中立の立場で直面化、明確化、解釈を行い、クライエントの洞察と無意識の意識化に努めます。これを繰り返し行うことを徹底操作といい、これにより知的な洞察を情緒的で直接的な洞察へと進んでいきます。
 またフロイトは、ひとは乳幼児期から性欲(小児性欲)を持つ存在であると考え、各発達段階に応じた性欲が十分に満たされないと、その時期に固着し、そのことが神経症を引き起こすと考えました。男根期(エディプス期)以前においては、母親との関係が人間関係の中心であり、男根期(エディプス期)に入り母親の愛情を独占したいという気持ちからくる父親への敵意が生まれると考えました。父親を疎ましく思い、父親殺しの願望(エディプス願望)を抱く反面、父親に処罰されてしまうのではないかという不安(去勢不安)を持つとされており、そのことをエディプスコンプレックスと呼びます。女児にとっても愛情を向ける対象は母親ですが、男根期(エディプス期)に入るとべニス羨望を持つようになり、自分にペニスがないことの責任を母親に感じ、次第にその願望が父親に向けられるようになっていくとされました。
 フロイトは、ヒステリー症状の重要な防衛機制を「抑圧」、強迫神経症の重要な防衛機制を「置き換え」であると考えました。自我の防衛機制は、フロイトやアンナ・フロイトらによって提唱されましたが、その他の主な防衛機制として反動形成、隔離、知性化、合理化、取り入れ、補償、同一化、投影、昇華、転換、身体化、行動化、退行があります。また、より早期の乳幼児の精神内界を重視したクラインは子どもの治療経験を通して、分裂、投影同一視、原始的否認、原始的理想化などの防衛が働いていると考え、これを原始的防衛機制と呼びました。
 また、精神分析の過程で、クライエントの治療者に対する言動を転移といい、これは主に過去の重要な人物に向けるべぎであったものと考えられています。逆に、治療者からクライエントに対する言動を逆転移と呼び、治療者に未解決の葛藤や神経症的傾向がある場合に生じやすく、治療者の中立性を奪います。また、精神分析では夢分析ということが行われました。フロイトの夢解釈は、夢を見た者の連想によって抑圧された願望を捉え、夢を願望充足と考えました。それに対してユングの夢解釈では、夢を見た者の人格と対応させて考える主体水準の解釈と、夢を見た者の外界の生活状況と対応させて考える客体水準の二つの解釈があると考えられました。
 精神分析は、寝椅子(カウチ)を用いて週4回以上行います。現在では、対面式で週に1回行う方法が多く用いられるようになり、正式な精神分析と区別するために精神分析的心理療法と呼ばれます。
 フロイトがリビドーを性的欲動として重視し続けたことから、ユングはフロイトと訣別して分析心理学を創始し、アドラー(Adler,A.)も劣等感を補償しようとする力への意志によって、他者を優越しようとする傾向が強まり(劣等感コンプレックス)、それが過剰になることで神経症になるという理論を提唱し、個人心理学を創始しました。また、フロイトやアドラーに師事したフランクル(Frankl,V.巳)は実存分析の概念やロゴセラピーを提唱し、フロイトの精神分析とハイデッガーの現存在分析論を起源にして、ビンスワンガー(Binswanger,L.)は現存在分析を行いました。古典的な精神分析を現代精神分析へ移行させる影響を与え、性格分析の技法と理論を体系づけたライヒ(Reich,W.)は、性的欲動の重視から離反していった弟子たちとは反対に、性格の鎧によるリビドーの抑圧が神経症を生じさせるとし、性を社会的な抑圧から解放させるべきだと主張しました。ライヒのほか、積極療法や弛緩療法を創始したフェレンツィ(Ferenczi,S.)に加え、ランク(Rank,0.)も出産外傷説などの現代精神分析への新しい理論を加える貢献をしました。精神医学や心身医学、精神分析に大きな貢献をしたアレキサンダー(Alexander,F.)は、心身症を力動的に捉え、後のメニンガークリニックの院長のメニンガー(Menninger,K.A.)も、彼から分析を受けています。

 また、フロイトの末娘のアンナ・フロイトは、八ルトマン(Hartmann,H.)とともに自我心理学派と呼ばれ、イギリスでフロイトの理論を継承しながらも、「人は、内的環境や外的環境に適応しようとする自律的自我を持つ」と人間を捉えました。自我心理学が発展したのとほぼ同時に、アメリカでは治療者と患者の間の相互作用や、社会との関係に重点をおいた分析派として、対人関係学派(新フロイト派)が生まれました。ホーナイ(Horney,K.)やフロム・ライヒマン(Fromm-Reichmann,F.)、サリヴァン(Salivan,H.S.)、エーリッヒ・フロム(Fromm,E.)らがそこに含まれます。特にサリヴァンは、「精神医学は対人関係の学である」と「関与しながらの観察」の重要性を述べたことが有名です。自我心理学派や新フロイト派に反対したフランスのラカン(Lacan,J.M.E、)は、一時パリ・フロイト派を先導しています。
 さらに、イギリスではクラインやフェアバーン(Fairbairn,W.R.D.)らによって、対象関係論学派(クライン派)が形成されました。エディプス期以前の段階での母子関係における、自我発達の対象関係を扱う理論です。フェアバーンは「自我は本来対象希求的である」とし、クラインは内的対象の存在を認め、原始的防衛機制を明らかにし、自我心理学派のアンナ・フロイトと激しい論争を繰り広げました。クラインの考えはビオン(Bion,W,R.)やスィーガル(Segal,H.)らに継承されています。クラインは、幼児の遊戯療法から、子どもの遊びを自由連想のように扱い、その意味に解釈を与えました。また、フロイトの内在化の概念を発展させ内的対象の概念を提唱し内的対象関係を重視し、転移を内的世界の外在化として捉えました。妄想一分裂態勢(P-Sposition)と抑うつ態勢(Dposition)の概念を提案し、この二つの態勢の間を行ったり来たりすると考えました。ウィニコット(Winnicott,D.W.)は内的で主観的な世界と外的で客観的な環境要因とのかかわりを重視し、子どもの心身をホールディング(抱える環境)すること、偽りの自己を発展させること、分離不安に対する防衛として移行対象の概念を提唱しました。バリント(Balint.M.)は、基底欠損を原初的な母子関係が現れるクライエントの特性の1つとして挙げ、主に境界例患者における対象関係の重要性を指摘しました。アンナ・フロイトらと学問的交流を持ったマーラー(Mahler,M.S.)は、分離個体化理論を提示し、分離個体化の成功により対象恒常性が達成されるとしました。

 自己愛性パーソナリティ障害の研究を行ったコフート(Kohut,H.)は、自己愛とは、原始的な形から適応的な形へと変わるといった精神分析と異なる意見を持つに至りました。その後、コフートは自己対象という概念を提唱し、原初的な自己対象であった母親との関係によって自己が成長し、母親が子どもの誇大感を映し出す鏡となることで、誇大感は向上心となり、理想化された自己対象が変容して内在化されることで、理想となっていく。その過程での失敗が起こることによって、自己愛性パーソナリティ障害になると考えました。そういったコフートの心理学を自己心理学と呼びます。
 現在、精神分析の流れを汲む新しい心理療法として、クラーマン(Klerman,G.L.)によって創始された対人関係療法も注目されています。うつ病治療に関して得られた知見をもとに作り上げられた対人関係療法は、原因を対人関係に求めるのではなく、対人関係を含めた環境要因、遺伝要因、パーソナリティなど様々なことを前提としてマニュアル化されたものです。

フロイト【Freud,Sigmund】エレンベルガー(Ellenberger,H.F.)が無意識を発見したこ
とを受けて、無意識という概念を世に知らしめた、オーストリァのウィーン出身の元神経医。ブロイラーやシャルコーに学び、当初は催眠によって治療を行っていた。催眠が退行を促すことを危惧し、催眠に代わる方法として、精神分析を創始した。最初は額を押すことで注意集中を促す前額法を用いたが、その後、自由連想法を考案して用いることとなった。フロイトの患者は主に神経症患者で、性的な心的エネルギーとしてのリビドーの概念を中心に据え、後の様々な心理療法に影響を与えた。

前額法1フロイトが自由連想法を行う前に行っていた治療法で、額に手を強く押しつ
けて圧迫し、強制的に過去を追及する方法のこと。

自由連想法【free association】精神分析の治療技法。患者は寝椅子(カウチ)に横に
なり、分析家が患者の頭の後ろに座り、患者が思い浮かぶ言葉やイメージなどをありのまま言語的に表現し語ることで、抵抗や抑圧、転移などの動きを踏まえて分析していくこと。フロイトは知己であるプロイァー(Breuer,J.)のアンナ・Oの症例から着想を得た。

精神分析【Psychoanalysis]フロイトによって創始された治療技法と理論の体系である。心的装置には、無意識・前意識・意識の三つの領域が考えられ、これを局所論と呼んだ。ところが、局所論は必ずしも十分ではないことが明らかになって、フロイトはイド・自我・超自我を想定して、これを構造論と名づけた。イドは性的エネルギーでもあるリビドーの大貯蔵庫と考えられた。自我は超自我の現実外界との調整をして機能する。これを防衛機制と称した。リビドー論といわゆる欲動論、心的葛藤、防衛機制などを力動論と呼ぶ。フロイトの精神分析では、週4日以上行うことを基本としており、実際に精神分析を受けることができたのは、当時の富裕層で時間があるもののみであった。

リビドー【libido】フロイトが生の根源とした、性的エネルギーのこと。リビドーとはもと
もと、「欲望」を意味するラテン語。精神分析の中で最も重要な概念のひとつとされ、リビドーはイド(エス)に存在すると考えられる。リビドーは乳幼児期の間は小児性欲として存在し、生きていくための根源的エネルギーと考えられた。

工ロス【Eros】生の欲動のこと。次第に増大していく統一体を作り、それを維持していく目的を持つとされる。それに対して死の欲動・破壊欲動のことをタナトス(Thanatos)と呼ぶ。

意識【consciousness】フロイトは夢の研究を通して打ち立てた精神分析理論において、心の働きが局所的に異なると考え、「意識」、「前意識」、「無意識」という三つの体系を想定した。これを局所論と呼ぶ。精神分析理論における意識とは、直接的・自覚的に経験している心の領域である。心の動きを従来の意識だけで捉えるのではなく、無意識を想定しながら連続的にとらえて概念化した点は、フロイトの大きな功績といえる。このように心を連続的にとらえることは、心理臨床の基礎理論として極めて重要である。

前意識【preconsciousness】意識には上ってはいないものの、思い出そうと意識を向けることで、意識化ができる記憶などが貯蔵されている領域のこと。局所論において、意識と前意識の間には`検閲"という防衛機制が働いているとフロイトは仮定した。

無意識【unconsciousness】強く働き続けているにもかかわらず抑圧されている内容が含まれる局所論の一領域。人の心の中には本人も気づかない無意識的領域が存在し、この無意識が人間の言動に大きな影響を及ぼしていると考えられる。無意識には、怒りや罪悪感などネガティブな感情を伴った考えや思い、記憶、またそのままの形では充足されない願望が抑圧されており、フロイトはそれを言語化していくことで、神経症の寛解につながると考えた。「無意識的な」というように表現された場合、抑圧の防衛機制によって意識の外に追いやられていることを指す。

局所論【topography】心の構造を意識前意識、無意識の3つの領域で捉えた考え方.心的エネルギーであるリビドーが相互的に作用することで心的バランスが決定され、この3つの領域のバランスを崩すことで身体症状などが生じるとされる。

イド【id】、エス【Es】精神分析理論の構造論における3つの要素のうちのひとつ.快楽原則に基づいて無意識に働き、リビドーを開放し、衝動や欲求を充足することによって快楽を得る機能、または心的エネルギーのことをいう。そのプロセスにおいては、論理や時間観念、社会的価値は一切無視されるため、エスの中に保存された印象はいくら時間を経ても消失されない。したがって、その印象が脱価値化され、エネルギーを失うためには精神分析療法によって意識化される必要があると考える。
自我【eg。】精神分析の構造論における3つの要素のうちのひとつ。イドや超自我を統制し、現実原則に基づいて意識的に働き、葛藤を調節する機能のこと。フロイトによる自我の概念はあいまいであったが、後にハルトマンやエリクソンらの自我心理学者によって明確に提示された。自我には心的内容を総合し、心的過程を統合する傾向があるが、イドにはそれらの傾向はない。

超自我【super.ego】精神分析の構造論における3つの要素のうちのひとつ。イドの持つ本能的欲動を統制する機能のこと。自我は子どものころのしつけやルールなどによって本能的欲求の禁止を取り入れるが、それが内在化し、独立した精神機能とされる。道徳、良心につながるものであり、道徳原則に基づく。

構造論【structure】フロイトは当初心の働きを局所論的観点からとらえていたが、それだけでは十分ではないことが明らかになった後に、イド、自我、超自我という3つの機能を持った構造から人格が成り立つという観点を考えた。これを構造論と呼ぶ。

抑圧【repression】防衛機制のひとつ。受け入れがたいことを無意識的に意識の外に締めだそうとする心理的な働き。無意識的に意識の外に追いやるため、意識的に抑えこむ抑制とは区別されて考えられる。防衛機制の中で最も基本的なものであると言われ、他の防衛機制と同時に作用することもある。

防衛機制【defence mechanisms】フロイトによって考えられ、アンナ・フロイトに
よってまとめられた概念で、矛盾や葛藤から生じる苦痛や不快感を、軽減するための方法のことを防衛機制という。代表的なものとして抑圧、反動形成、置き換え、投影、知性化などがある。それに加え、クラインは、より早期の乳幼児に対して、原始的防衛機制という概念を提唱している。

神経症【neur・sis】カレン(Cullen,W.)によって初めて使用された用語。内因性の精神
病に対して、心因性のものをいい、病識がある精神疾患。抑うつ神経症、強迫神経症、不安神経症などの言葉が使われてきたが、神経に原因があるとされてきた神経症は、実際には心因性のものを指しているため、最近では用いられることが少なくなった。ただ、病態水準という文脈においては、精神病と神経症と対にして語られることが多い。

意識化 フロイトは、無意識の内に抑圧されているものを、自由連想法を用いて言語化していくことで、意識にのぼらせることができるということを考え、そのような意識できる状態にすることを意識化と呼ぶ。

解釈【ioterpretation】精神分析において、無意識のどのような動きによって神経症が生じているのか、抵抗、抑圧、転移などの概念を用いて、精神的な働きの意味を見いだしていくことを解釈と呼ぶ。

洞察【insight】心理療法において、クライエントが自分自身、もしくはセラピストからみたクライエントの持つ本質や現実について気づくことで、自己の心的現実に関する理解を深めること。「洞察を得る」という。

直面化【confr・ntation】患者(クライエント)が意識することを避けていることを、治療者側があえてそれに直面させることを試みること。直面化は、これまでクライエントが避けてきたことを外部(セラピスト)から、意識化させようと臨むものであるため、セラピストは細心の注意を払う必要がある。

明確化【clarificati。n】患者(クライエント)が言葉にして表現していないが、潜在的に
気付いていることを、治療者が適切な表現の言葉で言い換えることで意識化を促すこ
と。

徹底操作【w・rking・tho・ugh】患者(クライエント)に抵抗や転移を意識化させ再現させる直面化、抵抗や転移の無意識的な意味を明らかにしていく明確化、抵抗や転移の無意識的な意味を治療者が示していく解釈という一連の流れを繰り返し行うこと。

小児性欲【infantile sexuality】フロイトは、性欲を思春期ごろに出てくるのではなく、
乳幼児期から「小児性欲」として持っているものと考えた。心理性的発達段階に沿って、口唇期・肛門期・男根期(エディプス期)・潜伏期・性器期と小児性欲を満たす対象が変わっていくとされる。

固着【fixation】ある発達段階において小児性欲が十分満たされない場合、その時点に無意識的にとどまり、その時期から自由になれずに神経症を引き起こすとフロイトは考えた。そういった、ある時点にとどまる心理的・無意識的な動きのこと。たとえば、口唇期に固着すると甘えたがりの性格になり、肛門期に固着するとケチで几帳面な性格になるなどされる。

去勢不安【castration anxiety】エディプスコンプレックスを抱えるエディプス期に、母親に対する独占欲から父親に敵意を向けるのと同時に持つ、父親に処罰されるのではないか(去勢されるのではないか)という不安のこと。

エディプスコンプレックス【Oedipus complex】異性の親に性愛的感情を持ち、同性の親に敵意を持つとされる無意識的な心理状態。男児は「父親を殺して母親を独占したい」というエディプス願望を持ち、それと同時に父親に処罰されるのではないかという去勢不安を持つ。エディプスコンプレックスとは、ソフォクレスの「オイディプス王」の物語からフロイトが命名したもので、アポロンの信託「みずからの子どもが父親を殺し、母親を妻とするだろう」を受けたテバイの王ライオスとその妻のイオカステが、その信託通りその子オイディプスによって実現されてしまったという物語に由来する。

置き換え【displacement】防衛機缶1」のひとつ。満たされない欲求を別のものに置き換えることで、欲求を満足させようと試みること。Aという商品が欲しかったが高すぎるため、Bという安価で似た商品を代わりに購入するなど。

反動形成【reaction f・rmation】防衛機制のひとつ。抑圧された感情とは全く反対の行動を取ること。例えば、好きな子をいじめる、嫌いな相手に親切にふるまうなどが挙げられる。

隔離【isolation】防衛機制のひとつ。認めたくない感情や精神的なストレスなどを、精神的に隔離して置いておくことによって心を守ろうとする働き。辛い悲しいことがあっても、一旦それを置いておいて作業に熱中するなど。

知性化【intellectualization】防衛機制のひとつ。割り切れないもの、非合理的なもの、情緒的なものを知的に割り切ろうとすること。知的に解釈して平然としているように、自分にも周りにも見せかけることによって、自らの心を守ろうとする働き。

合理化【rationalization】防衛機制のひとつ。自己の行動t態度・思考に対し、論理的・道徳的に納得できる妥当な説明をし、不安や葛藤を回避する働き。すっぱいぶどう(イソップの寓話で、ぶどうを取れないキツネが「あのぶどうはきっとすっぱいぶどう
だ」と理由づけたもの)。

取り入れ【introjection】防衛機缶1」のひとつ。自分の持つことのできない、他者の持っている価値を、あたかも自分にその価値があるかのように取り入れるため、外見を模倣したり相手の一部を物理的にも取り入れることで欲求を満たす働き。

補償【compensation】防衛機制のひとつ。自分が劣等感を感じる部分を補うために、他の部分で努力するなどをすること。数学ができない代わりに、英語や国語をがんばるなど。

同一化【identification】防衛機制のひとつ。「取り入れ」に似ているが、自分の持っていない価値を持つ他者に対し、より自分が他者と精神的に融合しようと試みているもの。子どもがヒーローやアイドルの真似をするなど。

投影【projection】防衛機制のひとつ。自分のものとして受け入れがたい願望や感情を、他人がそれを持っているものとして認知すること。自分が相手を嫌いな時に、「相手が自分を嫌っているから、自分も相手のことを好きになれないのだ」と納得させることなど。

昇華【sublimation】防衛機制のひとつで、最も高度なもの。文化的、社会的に受け入れやすいものとして、性衝動や攻撃衝動などのエネルギ〜を向けること。欲求が満たされない代わりに、勉強やスポーツでがんばることなど。

転換【conversion】防衛機制のひとつ。抑圧された感情や欲動が、麻痺や感覚の喪失として身体に現れることで、失敗した防衛機制とされる。フロイトによれば、無意識的な願望や欲動が身体症状という形で現れ、言葉の代わりに身体言語で自分の抑圧された内容を語るという。「右の座席に座っている人の言うことを聞きたくない」と思)ていると、実際に右耳が聞こえなくなるなど。

身体化【somatioation】抑圧された衝動・葛藤が、様々な身体症状となることを身体化と呼び、失敗した防衛機制とされる。転換が特に麻痺や感覚喪失であるのに対し、アトピーや喘息など、その他様々な身体症状になる。失敗した防衛機制とされる。

行動化【acting out】無意識の衝動や葛藤を言葉で表現する代わりに行動を通して表現すること。フロイトによって用いられた用語。行動化は治療場面やそれ以外、またセラビストやそれ以外に対して起こる可能性があり、行動化は妨害や抵抗とされる。

退行【regression】実際の発達段階よりも幼い段階に戻ることで、欲求不満状況などに対応を試みること。赤ちゃん返りと呼ばれるもの。

分裂【splitting】原始的防衛機Xl」のひとつ。対象や自我(自己)を複数に分けようをする心理機制。「良い対象」の「悪い(とされる)部分」を否定するため、本来一つの対象を、「良い対象」と「悪い対象」に分けようとする。「良い対象」は理想化された一点の曇りもない状態とされ、「悪い対象」は子こき下ろされるべき最低のものとされる。単に英語からスプリッティングとも。

投影同一視【projective identification】原始的防衛機$1」のひとつ。自我(自己)の受け入れたくない部分を対象(相手)の中に押しやり、対象をコントロールしようという意図を持つもので幻想であるとともに、心的操作である。例えば、自分の中に自己中心的な部分があり、それを認めたくない場合、その自己中心性を相手の中に押しやり(投影)、その相手に対して「お前は自分勝手な奴だ」と非難するといったことが挙げられる。.


原始的否認【poimitive denial】原始白勺防衛機制のひとつ。自分に苦痛や不安をもたらすものに対し、最初から存在しなかったように否定してしまうもの。

原始的理想化【primitive idealization】原始的防衛機制のひとつ。自己と対象が「分裂」している状態において、分裂した対象のうち一方に向けて、過度な理想化を行うもの。それとは逆に過度な価値下げを行うものを「脱価値化」と呼ぶ。

原始的防衛機制【primitive defense mechanism】クラィンにょって捉唱された概念。フロイトらが提唱した自我の防衛機制に対し、より早期の乳幼児の精神内界に着目し、分裂、投影性同一視、原始的否認、原始的理想化などの防衛が活発に働いていると考えられ、これらを原始的防衛機制と呼ぶようになった。その他、相手を傷つけてしまうなどの不安から自らを守るために、自分の万能感を感じたり人を疑めたりしようとするような、躁的な部分を作り上げることを躁的防衛という。

転移【tranceference】フロイトによって提唱されたもので、相互関係のうち患者(クライエント)から治療者に向けられるもので、本来重要な他者(父親・母親など)に向けられるはずであった感情や行動、言動のこと。そのうち好意・愛情などポジティブなものを陽性転移、敵意・憎しみなどネガティブなものを陰陛転移と呼ぶ。

逆転移【counter transference】転移とは逆に、患者(クライエント)に対して引き起こされる治療者自身が持っている重要な他者への感情を患者(クライエント)に向けること。転移と同じく、陽性の逆転移と陰性の逆転移がある。元々、逆転移が起こることは否定されていたが、現在では逆転移をうまく利用することが大切であるとされる。

夢分析【dream analysis】夢解釈(lnterpretatlon of Dream)ともいう。フロイトは夢が主体の心理的世界をよく表していると考えた。夢は、抑圧されていた無意識が浮上してきたものであり、まとまりのない夢も実際はある意味を持っており、解読されるべき心理的現象であるとした。

精神分析的心理療法【psychoanalytic Psychotherapy】精神分析の構造をf乍って、週4日以上分析を行っていくことが現実的に困難であるため、フロイトが創始した「精神分析」を基本として、クライエントの問題や時間、場所などの条件にあわせて行うようになったもの。主に1週間に1回、45分〜60分の時間内に対面式で行うものが最も一般的なやり方である。

アドラー【Adler,A.】個人心理学の創始者。性欲を重視するフロイトに対し、アドラーは劣等感(器官劣等)を重視した。個人は何らかの劣等感を持ち、それを補償しようとする傾向が生じるとし、この補償作用が大きくなることで神経症の症状が生じるとした。また、この補償作用は心の中にある権力への意志の衝動によるものであると考えた。

力への意志【will topower】アドラーのキー概念のひとつ。権力への意志とも訳される。劣等感への補償として人間の根源的なエネルギーが存在するとしたもの。

劣等感コンプレックス【inferiority complex】アドラーのキー概念のひとつ。劣等感を原因として生じ、自分をよく見せようとしたり、失敗して傷つくのではないかと恐れる心の働き。

個人心理学【lndividualoPsychology】日本では、アドラー心理学(Ad【erian Psychology)の呼称が一般的である。アドラー心理学では、個人をそれ以上分割できない存在であると考え、人間の生を、個人という全体が個人の必要な機能などを使って目的に向かって行動していると考える。具体的には、人間は相対的に優越感に満たされるようなプラスの状態を目指して行動していると考えられ、行動の原因ではなく目的を分析する。さらに、人間を全体として捉え、理性と感情、意識と無意識を対立するものとせず、社会的存在として捉え、対人関係の分析に重点を置く。

フランクル【Frankl,V.E.】オーストリァの精神医学者。フロイトやアドラーに師事し、実存分析、ロゴセラピー、意味への意志を提唱した。神経症の治療は、個人にとっての人生の意味や価値、そして責任と自覚を手に入れることによって達成されると考えた。

ロゴセラピー【Logotherapy】フランクルによって提唱された。人間の本質を精神的実存に求め、その在り方を分析する。「意味への意志」を重視し、フロイトのいう快楽への
意志やアドラーのいう権力への意志が満たされても、「意味への意志」が満たされないと、本当に満たされたことにはならないとした。

現存在分析【Existential Analysis】ビンスワンガーによって創始された。クライエン
トの内的世界を重視し、ありまのままを理解しようとする。

ライヒ【Reich,W,】性格分析の技法と理論を体系化した。性格の鎧(character armor)によるリビドーの抑圧がオルガスムスの不能をもたらし、神経症を生じさせるとした。

フェレンツイ【Ferenczi,S.】精神分析の先駆者のひとり。セラピストのクライエントに対する関わりの能動性(activity)を強調し、クライエントとセラピストの相互的コミュニケーションを重視し、積極療法や弛緩療法を用いて治療期間の短縮をはかった。

出産外傷説【birth tra皿ma theorylランク(RankQ)が唱えた神経症の原因は、出産に際しての心理的・身体的不安あるいは外傷に基づくものであるとする説。母胎という守られた世界から、外の世界へ産み落とされたことによる生理的ショックと、それに由来する心理的外傷(トラウマ)が最大の原因と考える説のことをいう。

アレキサンダー【Alexander,F】精神医学、精神分析、心身医学など多くの領域において先駆的に貢献した。7つの代表的な心身症である消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、気管支喘息、本能性高血圧、神経性皮膚炎、甲状腺中毒症、慢性関節リュウマチなど身体的疾患を力動的に捉えた。

アンナ・フロイト【Freud,Anna】現在の遊戯療法の基礎を築いた、精神分析的自我心理学の開拓者・防衛機制を体系づけた。成人の精神分析療法の児童への適用を試み、自由連想法の代わりに遊戯療法を取り入れた。ジグムント・フロイトの末娘。

ハルトマン【Hartmann,H.】精神分析における自我心理学を創始した一人。イドと超自
我間の葛藤に巻き込まれない「葛藤外の自我領域にある自我機能」という考えを用い、イドや超自我から独立した主体性を持った自我として、外界への適応を行う自律的自我という機能に焦点づけし、自我装置と名づけた。

自我心理学【EgoPsychology】自我心理学とは、自我の主体的機能や成熟度に焦点を当てた精神分析の一派。アンナ・フロイト(ジグムント・フロイトの末娘)が創始者であることから、正統派精神分析と呼ばれることもある。フロイトの精神分析がリビドーの働きに重点を置いたのに対し、自我心理学では、自我構造の解明を理論の中心に置く。自我心理学派に分類される精神分析家には、アンナ・フロイトの他に、ライフサイクル論で知られるエリク・エリクソンや自我の自律的・能動的側面を強調した八ルトマンがいる。

新フロイト派【Neo Freudian】主に1930年代にアメリカで発展した精神分析学派。フロイトが重視した性的リビドーを批判し、対人関係や社会的・文化的側面の影響力を重視した。対人関係論のサリヴァン、ホーナイ、フロムなどが挙げられる。

ホーナイ【Horney,K.】基底不安(基本的不安 basic an×iety)という理論を唱えた。
彼女は、敵意に満ちた外界に囲まれていて、自分が孤独で無力であるという幼児の感情があると考え、両親と子どもの関係において、安全感を脅かすさまざまな要因から性格形成グなされるとした。また、彼女は神経症は真の自己と理想化された自己との葛藤と考えた。

フロム・ライヒマン【FrommoReichmann,F.】新フロイト派の一人。フロム,Eの教育分析を行い結婚した。統合失調症患者に「聴く」態度を基本とし、解釈よりも患者の理解を重視した。

サリヴァン【Sullivan,H.S.】新フロイト派の一人。重症破瓜型統合失調症の治療に成功したことで有名になる。セラピストがクライエントを観察する中で「関与しながらの観察」を見出し、「精神医学は対人関係の学である」と述べた。晩年には社会精神医学の分野に興味を持った。

工一リツヒ・フロム【Fromm,Erich】アメリカの精神分析学者で新フロイト派のひとり。マルクス主義の影響を受ける。サリヴァンやフロム・ライヒマンらとウィリァム・アランソン・ホワイト研究所を設立した。受容的・搾取的・貯蓄的・市場的・生産的構えの、5つの性格類型を唱えた。著書「自由からの逃走」、「愛するということ」が有名。

ラカン【Lacan,J.M.E】フランスの医師で精神分析家。フランス精神分析協会を創設するが後に分裂し、パリ・フロイト派を創設するが、1980年には解散させる。「フロイトへ還れ」という言葉が有名である。子どもは、想像界(投影との同一化によるイメージの世界)から象徴界(言語によるシンボル的世界)に興味を移し、次第に現実界(直接体験することのできないカオス)にも興味を持つようになると考えた。

--豆知識--
フランクルはアウシュビッツ収容所での経験を元にした著書「夜と霧」が特に知られています。


フェアバーン【Fairbairn,W.R.D.】イギリスの精神分析医で、対象関係論の中間派に位置する。精神病理学的状態の中で最も深いものは「分裂的状態(schizotd condition)」であるとした。

対象関係論学派【Object RelationoTheory】クラインらによって、精神分析から発展してきた学派。フロイトの考えを基にして、妄想一分裂ポジション(P-SpOSItion)と抑うつホジション(Dposition)を唱え、子どもに対して精神分析的関わりを行えるようにした。クラインの流れを受け継ぐものはクライン学派と呼ばれたが、フェァバーン(Fairbairn,W.R.D)はフロイトやクラインに批判的な立場を取り、ウィニコットはクラインの心的現実への偏りを指摘し、環境を重視した移行対象などの考えを提出した。彼
らやガントリップ(Guntrip,H.)、バリントは対象関係論の中間派と呼ばれる。

クライン派【Kleinian】メラニー・クラインの考えを引き継ぐ学派。クライン派には、発
達早期の母子関係を精緻に再構築したビオン、対象関係論を分かりやすく体系化したウィニコットやフェアバーン、そのほかにもスィーガルなどがいる。

ビオン【Bion,W.R.】集団療法の先駆者。「集団自体が独自の意識及び無意識の領域を持つ」と考え、グループを支配する無意識的領域である規定的想定集団の概念を提唱した。また、クラインの考えを継承しながら、内的対象関係から幻想的に生み出される内的現実性を、客観的な事物によって作られる外的現実性と同列に並べて、その現実から生み出される情動・感情の意味や内容を重視した。ビオンが精神病理学のメカニズムとして構想したのは、精神病的な混乱と発狂するような不安を人間にもたらす『意味を持たないβ要素(物そのもの・直接的知覚内容)』の精神内界への侵入である。しかし、哲学的な非意味のβ要素が、母親からの言語的説明や情緒的交流によってα要素へと変質して精神的な安定を得ることができるという理論を提唱した。

スイーガル【Segal,H。】クラインから直接指導を受けたクライン派の一人。ほかにローゼンフェルト(ROsenfe【d,ト1.)やビオン(Bion,W.)なども同じくクラインの弟子にあたる。

クライン【Klein,M.】対象関係論の基礎を築きあげた。対象関係における2つの時期を妄想一分裂ポジション(paranoid-schizoid position:P-S position)と}fPうつポジション(depressive position:Dposition)として理解した。妄想一分裂ポジションとは、「生後4か月ごろまでの乳児は母親を全体的に捉えることができず、乳房という部分対象で捉えており、自分の欲求を満たしてくれる良い対象と、満たしてくれない悪い対象という分裂(splitting)が起こっている状態」のことをいう。抑うつポジションとは、「生後
4ヶ月ごろから、乳幼児は次第に良い対象と悪い対象として分裂して捉えている乳房が、変わらない母親のものと全体対象として捉えるようになり、抑うつ的な不安が生じる状態」のことをいう。また、児童分析では、子供の持っている内的世界を解釈することを重視した。

内在化【internalioation】社会規範や価値を自分の中に取り入れ、自分自身がこれに合う規範や価値を身につけるように変化していく過程のこと。他者の存在や安心感なども内在化されうる。

内的対象【internalobjects】親との関係など経験を通して、外的環境に存在する表象(例えば母親)を、自己の内的世界に存在する表象として捉えたもの。

ウィニコット【Winnicott,D.W.】対象関係理論を発展させた。毛布やタオル、ぬいぐるみなどの移行対象が子どもの内的な主観的体験から客観的体験、未分化な母子関係から分化した母子関係への移行を促すとした。

ホールディング【holding】ウィニコットによって提唱された概念。常に母親がそばにい
てくれるものであり、不安や欲求を受け止めてくれる母子関係のこと。

偽りの自己【false self】ウィニコットが、本当の自己との関係で論じた概念。早期の環境側の失敗に対して自己を防衛するために本当の自己と分裂して作られたもの。偽りの自己を生きている人々は、社会場面では適応的に見えるが、内面では無力感、空虚感、非現実感を抱いているとし、病因を早期の母子関係にあるとした。

移行対象【transitionalobject】ウィニコットが提唱した、乳幼児が特別に愛着を寄せ
るようになる無生物の対象を指した用語。毛布やタオル、ぬいぐるみなどが挙げられる。乳幼児は生まれた当初、母親が身の回りのすべてのことをやってくれる、言い換えると母親に完全に依存した状態で自身の欲求を満たしている。ウィニコットは、この状態を「錯覚」と呼び、乳幼児は世界が自分の思いどおりに動くという主観的な世界の中で生きているとした。しかし、成長するに従い、母親からの自立が進むと外的な世界への探索が増え、例えば未知の人やものとの遭遇といったイベントの経験により、恐怖や不安などのストレスを感じる。このように主観的な世界から外的な世界に移行していくことを「脱錯覚」と呼ぶが、移行対象はこの際に感じるストレスを軽減させるために用いられる。

基底欠損【basic fault】バリントによって提唱された概念。発達過程の早期において、母親は子どもに愛情と保護を捉供するが、それらを受けられなかったために生じるとされる。基底欠損を持っている人は神経症になるリスクが高いと言われている。バリントは、この概念を通して早期の母子関係の重要性を強調した。

マーラー【Mahler,M.S.】自我心理学派の精神分析家。正常な自閉症期・正常な共生期・分離一個体化期という分離一個体化の概念を提案。その後、母子を観察するなかで、分離一個体化期の段階、分化期・練習期・再接近期・分離という分離一個体化理論を提唱した。

分離個体化理論【separetion individuation theory】マーラー(MalarMS.)にょって提唱された発達理論。@正常な自閉期、A正常な共生期、B分化期、C練習期、D再接近期を経て、個体化が強化され、対象恒常性の獲得が始まると考えられている。個体化とは、母親と自己が未分化な状態から分離した自己(個体)が、より自律した個体として変化してくことを指す。
@正常な自閉期:生後数週間までの時期で、心理的過程よりも生理的過程が優先である。胎児期に近い状態で外的現実から隔離された閉鎖系として機能している時期。
A正常な共生期:生後1ヶ月から5ヶ月ごろの時期で、外的刺激への関心が高まる。この反応性の高まりによって養育してくれる対象をぼんやりと認識できるようになる。
B分化期:耳俘化とも呼ぶ。生後5ヶ月から10ヶ月ごろの時期で、持続的に外界に注意が向くようになり、探索行動が出現する。母親と他者の区別ができるようになる時期。
C練習期:生後10ヶ月から16ヶ月ごろの時期で、はいはいができるようになるなど身
体的な能力が高まり、母親から離れるようになる。この時期には母親が安全基地の役割を果たす。
D再接近期:生後15ヶ月から25ヶ月ごろの時期。身体的な能力はさらに高まり、直立歩行ができるようになって行動範囲が広がると、自分の力が及ばない対象の存在に近づくことになる。そのため離れる喜びだけでなく強い分離不安を示し、親の承認・非承認に敏感になる。この時期を乗り越えることによって個体化が強化されていく。

対象恒常性【object constancy】25ヶ月から36ヶ月の期間に、母親という存在が内的対象として取り入れられ統合され、その心的表象が母親の不在時にも保持できるようになること。身体的接触がなくとも母子間の絆が確信できることにより、安定した自己-他者関係が明確化し、自律的自我の基礎が確立するとされている。

コフート【Kohut,H.】自己愛について、病理的な側面を強調したフロイトに対し、発達や治療に与える影響を評価し、健康的な自己愛の側面を精神分析に取り入れ、自らの立場を自己心理学と名付けた。

自己心理学【Self Psychology】コフートが創始し、自己を中心概念とする精神分析学派の一つ。人間の心的装置である自我よりも、心の全体の中心である自己を重視した立場であり、自己愛性パーソナリティ障害のパーソナリティ理論と治療に端を発する。コフートが自己愛性パーソナリディ障害の患者を精神分析で治療していく中で、理想化転移と鏡転移を見出し、自己対象転移として一つの概念にまとめた。この現象は精神病理学的に観察されるものではなく、人間の誕生から生まれる自己心理学の発達論として位置づけられている。

対人関係療法【Interpersonal psychotherapy;IPT】米国でクラーマン博士らによって開発された心理療法。アメリ力精神医学会の治療ガイドラインでもうつ病に対す
る有効な治療法として位置づけられるなど、認知行動療法と双壁をなす精神療法として知られている。治療は「重要な他者(自分の感情に最も大きな影響を与える人)」との「現在の関係」に焦点を当てて行い、コミュニケーションのパターンなどに注目することによって、対人関係全般が改善することも期待される。エビデンスベースドであること、期間限定の短期療法であることが特徴。うつ病のほか、摂食障害にも長期的な効果を及ぼすことが確認されている。



ユング心理学

行動主義と認知行動療法


      
行動主義と認知行動療法2

      
人間性心理学

      
人間性心理学2

      
家族療法

      
家族療法2
      
遊戯療法と箱庭療法

      
心理教育と集団に対するアプローチ、その他の心理療法

      
その他の心理療法