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心理学一般 |
※通常、心理学一般に含まれる「心理学の歴史」および「心理学の分類」は前章「心理学とはなにか」で記述しましたので省略します。
-知覚・感覚-
-知覚とは-
知覚は刺激に対して意味づけを行う過程です。
人間を含む動物は、外界からの刺激を感じ取り、それに基づいて行動しています。感じ取った外界の刺激に意味づけをするまでの過程を知覚と呼びます。例えば熱い物に触れた時、皮膚が物理的な刺激(熱)に基づく感覚情報を受け取り、それに対して「熱い」という意味づけを行うまでの過程が知覚です。特に現代社会における人間は、1日中多くの刺激にさらされており、非常に多くのことを知覚しています。知覚は人間の心理と密接に結びついています。
刺激とそれを受け取る感覚機能には様々な種類があります。
テレビやスマホの画面に映る情報、話し声や音楽などの音、自動車や電車の振動、様々な臭い、食べ物の味。これらは全て人間が外界から受け取る刺激です。刺激は物理的刺激、化学的刺激、機械的刺激、温度刺激などに分類されます。一方、刺激を受け取る感覚機能では五感(視覚。聴覚。嗅覚。味覚。触覚)が広く知られています。触覚の中に温度感覚も含めることが多く、体性感覚と呼ぶこともあります。目・耳・鼻・舌、そして皮膚から、人間は様々な情報を受け取っています。
五感以外にも運動感覚、平衡感覚、内臓感覚などがあります。
外界の刺激を受容して上に示した五感がよく知られていますが、これが人間の感覚の全てではありません。五感はどれも外界の刺激を感じ取るものですが、自身の体に関連する感覚である、運動感覚、平衡感覚、内臓感覚などが知られています。運動感覚は身体の運動についての感覚であり、内臓感覚は臓器の状態に伴う感覚です。内臓感覚の場合は、各器官に感覚受容器が存在し、自分の内臓の生理的な状態などを把握しています。
知覚は大脳において非常にうまく処理されています。
知覚も、他の様々な情報を処理している大脳においてうまく情報処理。統合されています。五感やそれ以外の感覚がうまく統合されることで、人間は様々な行動をすることができます。例えば、「目の前にある時計をつける」という行為を考えてみましょう。無意識にでもできそうな行為ですが、その過程には様々な感覚。知覚が関与しています。時計を見る知覚、時計に触れる触覚、手をのばす際の体性感覚、そしてその間に時計を見て時計だと認識したり、運動出力を行うといったことが統合されて初めて時計をつけることができるのです。
運動出力情報も知覚において重要な役割を果たしています。
人間は、得られた感覚に基づいて知覚。判断した結果、運動出力、すなわち体を動かします。一方で、「持った物が重い」という知覚には、皮膚の触覚(圧覚)や、重さに抗して筋肉を収縮させる運動出力が関与しています。つまり運動出力と知覚が相互作用していると考えることができます。このように触覚と知覚が結びついて対象を知覚することを能動的触知覚(アクティヴタッチ)と呼びます。
知覚の次の過程は認知です。
上述のとおり、知覚は感覚に意味づけを行う過程です。知覚の最終到達点は「熱い」「重い」「固い」といったものになります。それを元に、人間は「熱いのはなぜか?」「重いから手を離そう」「固いから良い材料になる」とさらに解釈を進めていきます。時計が見える過程と、見えた物を時計だと認識する過程はまた別の物です。外界にある対象を知覚した上で、それが何なのかを判断したり解釈したりする過程を認知と呼びます。認知は知覚よりさらに高次の機能と言えます。 |
-ゲシュタルト心理学と知覚-
-ゲシュタルト心理学とは何かについて、-
ゲシュタルト心理学については、ドイツのM. ヴェルトハイマー、W. ケーラー、K. コフカ、K. レヴィンらが中心的存在となって、提唱された心理学です。
(ゲシュタルト心理学については、ユダヤ系の心理学者が多いです。)
ゲシュタルトとは、ドイツ語であり、全体として認識して初めて意味を成すという意味で、分解して部分だけを見ても、意味をなさないものを言います。
たとえば、音楽については、音符一つ一つだけを抽出しても、全く意味を成しませんが、全ての音符を総合的に聞くと、音楽として聞き取れます。
このように、部分に分かつことができずに、全体としてまとめて見ていくことが
必要であるというのが、ゲシュタルト心理学の立場です。
ゲシュタルト心理学では、心身一如という立場を大切にし、心と体は、分解することはできず、別々に考えては間違いであると言っています。
そして、ゲシュタルト心理学が出てくる以前の心理学では、要素に分割して人間の心を研究していたのですが、それに反対して、分割されない一人の人間として心理学を扱うように、警鐘を鳴らしてきたのもゲシュタルト心理学です。
ゲシュタルト心理学では、「全体には、部分の単純な総和 以上のものがある」と言っています。また、ゲシュタルト心理学の考え方は、その後、知覚心理学、社会心理学、認知心理学などに受け継がれ、現代の心理学に与えた影響は非常に大きいものです。
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-プレグナンツの法則-
プレグナンツの法則について、解説していきます。
プレグナンツの法則とは、ゲシュタルト心理学における人間の知覚の法則です。
また、「プレグナンツ」とは、簡潔なという意味の言葉です。
プレグナンツの法則には、代表的な3つの要因がありますので、次に、見ていきたいと思います。
●プレグナンツの法則における代表的な3つの要因
(1) 近接の要因
|| || ||
まず、上記の図を見ていただきたいのですが、実は、これは、特にグループ分けしているのではなくて、ただ、単純に、縦線を適当に並べて表示しているだけです。
でも、不思議なことに、近くにある縦線同士が、一つのグループになっているように見えてきますよね。逆に、遠くにある縦線同士は、グループには見えません。このように、人間の知覚には、近くにあるものをグループであると自動的に認識する機能があるということです。また、視覚的なものだけではなく、時間的にも近いものはグループとして認識されるということを、覚えておいていただきたいと思います。
(2) 類同の要因
□■■□□■■□□■■□□■■□□■
次に、上の図を見ていただきたいのですが、これは、実際には、黒い四角と白い四角を適当に並べただけの図です。しかしながら、黒い四角2つと、白い四角2つは、なぜか、一まとまりのグループとして認識してしまいますよね。
逆に、黒い四角と白い四角を一まとまりのグループとして認識することは難しいです。
このように、人間の知覚においては、同じような物を一まとまりのグループとして認識するということを覚えておいていただきたいと思います。
(3) 閉合の要因
〕〔 〕〔 〕〔 〕〔
今度は、上の図を見ていただきたいのですが、これも、ただ単純に、右向き括弧と左向き括弧を並べただけのものです。しかしながら、不思議に、お互いが閉じあっている部分が、一まとまりのグループとして、認識してしまうものです。逆に、お互いが開き合っている部分は、グループとしては、認識しづらいものです。
以上のように、人間の知覚は、プレグナンツの法則によって、意外にも、勝手にグループ化して認識してしまうものであるということを、ご理解いただけたらと思います。
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-視知覚の生理学的基礎-
人間が経験する感覚の中で、環境から獲得する情報が最も多いのは、視覚と
いわれています。視覚に用いられる感覚器官は「目」であり、眼球と呼ばれる球
状の構造物です。眼球の内倶1」には網膜と呼ばれる膜状の組織があり、瞳から入射した光はこの網膜に投影され、神経細胞が反応し、その信号が脳に送られて視覚が成り立ちます。光を受容する細胞は光受容神経細胞と呼ばれ、錐体細胞と桿緯纒胞の2種類があります。錐体細胞は主に明るい所で、桿体細胞は暗い所で使用されます。また、これらの細胞は明暗の変化の際にも働きます。明るい所から暗い所へ入ると、または暗い所から明るい所へ入ると、最初は見にくく
ても次第に目が慣れて見えるということです。この目の慣れの現象については、
それぞれ暗順応と明順応といいます。
色の視覚に関して、ヤングーヘルムホルツの3原色説があります。これは、解
剖学が発展していなかった19世紀の仮説ですが、「赤」「青」「緑」の3原色に対
応した視神経細胞があることを仮定していました。しかし、色覚異常者の存在
や色の残効現象の説明がつかず、批判を浴びました。3原色説の後に提唱され
たのがヘリングの反対色説です。これは、網膜上に「黒一白」「赤一緑」「黄一青」にそれぞれ対応する3種類の化学物質があることを想定することで、3原色説の
問題点を解消しました。ところが、後の研究でこの理論が想定した化学物質は
網膜上に存在しないことが明らかになりました。今日では、3原色説と反対色説
の両方を取り入れた段階説が支持されています。
網膜に映った情報は、電気信号として脳の視覚野に送られますが、右視野の
情報は左半球に、左視野の情報は右半球に到達します。これは、右視野の網膜神経が左脳に、左視野の網膜神経が右脳につながっているためです。こういった
目の情報が反対の脳に伝わることを視交叉といいます。視覚野に入った情報を
処理する経路は、外側膝状体から第一次視覚野(V1)に至る経路です。 V1以降
の伝導路は、物体の形状や色を処理するWhat経路と、物体の空間における位
置や運動を処理するWhere経路に二分されます。こうして処理された情報は、
前頭葉などでさらに高次な処理を受けることになります。
錐体細胞【c。ne cell】網膜の黄斑に密に分布している。色覚の基礎となる各波長の光に応するが、その反応には十分な光量を必要とする.明るいところではその機能を十分に果たすことができるため、物の形や色が明確に見える。
桿体細胞【rod cell】網膜の周辺に分布してい。.明暗に敏感に反応をする機能により、少量の光であっても反応するが、色には反応しない。暗所で色は見えないが、物の形を判断できるのはこの細胞のおかげである。
暗訓応【dark adaptation】明所から暗所へ入ると、最初は暗くて周囲の状況がわからないが、時間を経るにつれて次第に周囲の状況がわかるようになる現象。暗順応には30分〜1時間を要する。
明順応【light adaptation】暗所から明所へ出ると瞬間的にまぶしいが、次第に慣れる現象。その過程は非常に急激で、感受性が恒常的になるのに要する時間は、数分程度である。
ヤングーヘルムホルツの3原色説【Young.Helmholtz trichromatic theory】光の3原色(赤。緑。青)を混ぜ合わせる乙とで、全ての色を作り出せる(混色の原理)。ヤングの色覚理論をヘルムホルツが体系化し、3原色説を唱えた。網膜上にそれぞれ異なる波長に反応する3種類の錐体細胞を仮定し、その興奮比率の組み合わせにより色彩の感覚が生ずるとした。3種類の錐体細胞とは、長波長-赤、中波長-緑、短波長-青である。
これは、混色実験に基づいた説であり、加法混色については説明できるが、補色残像に⊃いては説明できない。三色説に対する説として、反対色説がある.三色説の方がやや優勢であったが、現在では段階説へと移行している。
段階説【stage theory of color vision】人間の色覚機構に二つ(あるいはそれ以上)の処理段階を想定する理論を総称して段階説という。網膜のレベルでは3原色、外側膝状体のレベルでは反対色の情報によって処理され、視覚野に送られると考えられる。実際に、錐体と桿体から信号を受け取って中枢に送る視神経内に、反対色細胞が発見されている。
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-リーダーシップ理論-
グループダイナミクスとリーダーシップ
集団とは複数の個体の集合を指しますが、心理学では、共通の目標をもって
相互作用を行い、影響を及ぼし合っているなどが集団成立の要件とされていま
す。集団を構成するメンバーを成員と呼び、成員相互に共通して期待される考
え方や行動様式を集団規範といいます。集団が成熟していくと、相互作用や相
互依存が高まり、成員を集団内にとどまらせようとする力が生まれます。これ
を集団凝集性といいます。また、集団規範に同調するようにかかる心理的圧力
が生まれます。これを斉一性の圧力といいます。こういった集団の性質を研究
する分野としてグループダイナミクスがあります。
集団が成立すると、目標を達成するために特定の成員が他の成員や集団全体
に影響を与える過程が生まれます。集団を円滑に進めていくこの過程はリーダーシップと呼ばれ、数多くの研究が様々な視点からなされてきました。ストックディル(St。gdill,R.M)は、優秀なリーダーの特性を明らかにしようとした研究を整理し、@知能、A素養、B責任感、C参力口性、D地位の5つの特性を挙げました。
リーダーの行動様式の研究に端緒を開いたのが、レヴィンら(Lewin,K. etal.)による「専制型」「民主型」「放任型」のリーダーシップ。スタイルの違いによる集団の生産性への影響を検討した研究で、民主型のリーダーシップの有効性を実証しました。
その後、集団の機能と関連するリーダーシップ研究が多く行われました。集団機能とは、集団達成機能と集団形成維持機能であり、前者は集団の目標達成に向けて方法や意見の提示を求めるなどで指向する機能、後者は成員の発言や参加を促したりすることで集団内の有効な関係を維持する機能です。これに関連する研究で、我が国では、三隅二不二(みすみじゅうじ)のPM理論が有名です。
次に盛んに行われた研究は、集団の特性や集団の置かれた状況をも考慮に入
れて検討する状況即応アプローチです。その代表として、フィードラー(Fiedler,F.E.)の条件即応モデルやハウス(H。use,R.J.)のパス=ゴール理論、八一
シーとブランチャード(Hersey,P.,&Blanchard,K.H.)のSL理論が挙げられます。
近年では、従来の研究の多くが焦点を当ててきた、リーダーと成員との調和や現在の成果を重視するリーダーシップを交流型リーダーシップ、それに対し、集団内外の価値観に柔軟で、集団に創造的な自己改革能力を育成するリーダーシップを変革型リーダーシップと呼ぶようになっています。
リーダーシップ。スタイル【leadership style】レヴィンら(Lewin,K. et al.)は「専制
型」「民主型」「放任型」の3タイプの研究で次のような結果を得ている。専制型のもとでは、リーダーへの依存度が高く、作業量は大きくなり、成員の行動として攻撃型と服従型に分かれた。民主型のもとでは、成員間は友好的で集団意識が高く、創造性にも優れ、高い生産性を示した。放任型のもとでは、作業の失敗や挫折が多く、作業の興味関心やモラルは低いことを示した。
PM理論【P.M theory】三隅二不二によって提唱されたリーダーシップ行動の機能に関する理論。課題達成機能をP(performance)機能、集団形成維持機能をM(maintenance)機能とし、リーダーが果たすそれぞれの機能の水準を高低2水準に分けて交差させ、PM、 Pm、 pM、 pmの4類型のリーダーシップ。スタイルがあるとした。
集団の生産性や満足度は、両機能が高水準であるPM型のリーダーのもとで最も高く、両機能が低水準pm型で最も低いことが示されている。
条件即応モデル【contingency model】フィードラー(Fiedler,F.E.)による、集団の
条件によってリーダーシップの効果が異なるとしたモデル。リーダーの特性をLPC
(Least Preferred C。-w。rker)得点によって測定する。 LPC得点とは、「一緒に仕事をする最も苦手な仕事な仲間に対して、どのくらい好意的に認知をしているか」を示す。つまり、LPC得点の高いリーダーは人間関係志向で、
LPC得点の低いリーダーは目標達成志向である。集団状況(リーダーと部下との関係、課題の目標や明瞭さ、リーダーの地位勢力といった3要素)に応じて、どのスタイルのリーダーであるかによって生産性が変わるとされる。
パス=ゴール理論【path-goal theory】ハウスによるリーダーシップのモデル。集団の目標達成のために、リーダーが成員にどのような道筋(パス)を示すかにリーダーシップの本質があるという理念に基づいている。リーダーシップ。スタイルは指示型、支援型、参加型、達成志向型の4つに分類される。また、リーダーが置かれた状況を、環境的な条件と部下の個人的な特性の2つの側面に分けている。リーダーの行動が環境的な要因に過剰だったり、部下の特性と調和しない場合には、リーダシップは上手く発揮できないが、リーダーの行動が状況に適合している場合にリーダーシップが発揮できるとしている。
SL理論【Situational Leadership theory】ハーシー(Hersey,P)とブランチャ_ド
(Blanchard.K.H.)によるリーダシップ。スタイル(行動)と状況に焦点を当て、状況変
教に成員や集団の成熟度を取り挙げた理論。成熟度とは、ある職務を遂行できる知識や龍力、経験の長さ、仕事に対する意欲や自信である。リーダーシップ。スタイルは課題志向型(指示的行動)と関係指向型(協労的行動)の2つのスタイル(行動)の組み合わせ,よって決定される。効果的なリーダーシップを発揮するためには、成員の成熟度が高なっていくことに対応して、リーダーシップ。スタイル(行動)を変えていく必要があるとしている。
交流型リーダーシップ【transactional leadership】リーダーが成員たちと相互作用しながら、集団をまとめていく過程で発揮される、レヴィンら(Lewin,Ket al.)の研究から始まった従来型のリーダーシップのこと。
変革型リーダーシップ【transformational Ieadership】成員の視点を将来の環境や変化に向けさせ、自らも的確に先読みし変化に柔軟であり、創造的で革新的な達成目標を掲げ、集団自体の変革を促すリーダーシップのこと。
【豆知識】アヴォリオ(Avoli。,B.J)は交流型リーダーシップを基本とし、変革型リーダーシップを取り入れたフルレンジ。リーダーシップモデルを提唱した。
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-ストレスと心的葛藤-
ストレスとは、生体に適応させようとする要求と、それによって生じる身心の非特異的反応のことをいいます。非特異的反応とは、刺激の種類によって反応の種類が異なるといった関連性のある刺激一反応関係(特異性)がないことを指します。ストレスという語を現在用いているような意味で最初に用いたのはセリエ(Selye,H)でした。セリエは有害物質や寒さ、暑さにさらされたりした時に生体が示す非特異的な反応状態のことをストレスと定義し、汎適応症候群(GAS) を提唱しました。汎適応症候群を生じさせるものが ストレッサーです。汎適応症候群はショック相と反ショック相からなる警告反応期、抵抗期、疲懲期に分けられます。
ストレスによる影響への生理学的見地からはキャノン【Canmn, W.B.】がホメオスタシスを提唱しました。生体は外部環境の変化に関わらず、内部環境はホメオスタシスによって常に一定に保たれます。
これらは生理的ストレスモデルといわれ、 心理学的ストレスモデルと呼ばれるものもあります。心理学的ストレスモデルの代表的な定義はラザルスが行いました。ラザルス(Lazarus, R.S.)は日常いらだちごと(デイリーハッスル) を提唱し、ちょっとしたことでも長期間繰り返されることの影響によるストレスの重要性を述べました。ラザルスは心理学的ストレスモデルも提唱しました。
心理学的ストレスモデルでは、認知的評価が一次的評価、二次的評価に分けられ、個人の対処能力を超えたときにストレスとして現れるとし認知的側面を重
'[!しました。同じストレスにさらされても、自己効力感(P93参照)や対処行動が異なれば、ストレスの意味合いが変わってきます。
また、ホルムズとレイ【H。lmes,T.H.&Rahe,R.H.】は社会再適応評価尺度を提唱しました。これは、生活上の重大な出来事によってそれまでの生活を変えなければならない時、再適応するまでにかかる労力が心身に影響を及ぼすと考えて作成された、ストレス。レベルを測定するための尺度です。ネガティブなライフイベントだけでなく、結婚や誕生日などのライフイベントもストレス反応を生じるとされています。
様々な欲求が満たされないとき、心理的葛藤が生じますが、そのタイプには、接近一接近型/回避一回避型/接近一回避型/があります。
ソーシャルサポートはさまざまな外的なサポートのことを指し、知覚さRたサポートがストレス緩衝効果をもつといわれています。
セリエ【Selye, H.】ストレスを、有害物質にさらされるなどの非特異的な生体が示す特異的な状態と定義した。もともとストレスとは物理学の用語であり、セリエの定義したストレスは生物的ストレスといわれる。
汎適応症候群【General Adaptation Syndrome;GAS】ストレッサーにさらされ続けると、体は様々な反応を示す。この変化はストレッサーの種類に関わらず生じる非特異的な反応であるとした。警告反応期、抵抗期、疲備期の3段階に分けられる。
ストレッサー【stressor】ストレスを引き起こすもの。セリエ(SelyeH)が名付けた。個人の外部に存在するとされている。種々のストレッサーが複合的に影響する。
キャノン【Canmn, W.B.】ホメオスタシスの概念を提唱した。また、特定の情動と本能的反応には関連性があることを説いた闘争一逃走反応などさまざまなストレス研究を行った。
ホメオスタシス【homeostasis】個人が外部の変化にも関わらず、自己の内部環境を安定した状態に保とうとする状態。恒常性ともいう。
心理学的ストレスモデル【psychological stress model】ラザラスが認知的評価の観点から提唱した理論。人がストレスとなる刺激を受けた際には、一次的評価と二次的評価という2つの評価プロセスが存在すると考えた。一次的評価ではその刺激が自分にとって脅威的なものであるかどうかなど、自分との関係や影響を評価するもので、無関係、無害一肯定、ストレスフルの3つに分かれる。これに対して二次的評価では、ストレスフルと評価された刺激に対してその出来事や状況にどのように対処すべきか、自分にどのような対処可能性があるかを判断する段階で、ここではコーピングの幅の広さや対処傾向などが関係しており、これがストレス解除の成否に関連する。
日常いらだちごと【daily hassles】ラザルス(Lazarus.R S,)は、日常生活の中にある比較的小さく、持続的。慢性的なストレスへの主観的評価を重視した。たとえば「仕事への不満」や「食事の支度」などで、ライフイベントが一過性、急性的なものが多いのに対し日常いらだちごとは持続的、慢性的である。
対処行動【coping】ストレスに対処するプロセスのこと。ラザルスはコーピングを問題焦点コーピングと情動焦点コーピングに分類した。問題焦点コーピングとは、ストレッサーそのものを解決すべき課題と評価し、直接働きかけて問題を明確にしたり、改善したりするもので、ストレス源となっている相手と直接話し合うなどがこれにあたる。
一方、情動焦点コーピングとはストレッサーよりもむしろそれに対する感情的な反応をコントロールしようとするものである。問題を避けたり、放置して時が経つのを待つなどがこれにあたる。
ホルムズ&レイ【Holmes,T.H.&Rahe,R.H.】生活上の重大な出来事、たとえば「結婚」「妊娠」「引っ越し」によって引き起こされた生活様式の変化に適応するまでの労力が身心の健康状態に影響を及ぼすという考えに基づいて、社会再適応評価尺度を作成し、個人のストレス。レベルを測定。生活上何らかの変化をもたらす出来事が記述された43項目からなり、各項目には出来事の重大さに応じて重みづけ得点が与えられている。
心理的葛藤【psychological conflict】同時に満足させることが困難な要求や、衝動が同じくらいの強さで個人に存在し、行動が決定できない状態。
接近一接近型/回避一回避型/接近一回避型【approach-approoach conflict/nvoidance-avoidance conflict/approach-avoidance
conflict】接近一接近型の葛藤は、同じくらい魅力的な対象が2つかそれ以上あるとき、同時にそれを得たいと思っているが困難な場合に生じる葛藤状態。回避一回避型の葛藤は、望ましくない対象が2つかそれ以上あり、いずれも選択したくない場合に生じる。接近一回避型の葛藤は、あることを行うと肯定的な側面と否定的な側面が生じるときに生じる葛藤である。
ソーシャルサポート【social support】家族や友人など、個人を取り巻く様々な援助、心理的、社会的資源を指し、有形、無形は問わない。コミュニティ心理学のキャプラン(Caplan,G.)が概念化したもの。
--豆知識--
ホメオスタシスは「元に戻ろ,とする力」といわれ、体内やさまざまな組織などでも働いているといわれています。
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-パーソナリティ論-
類型論と特性論
アメリ力精神医学会による精神疾患の診断基準であるDSM-IV-TRによる
と、パーソナリティ(personality)とは「環境および自己に関する知覚、関係、
および思考の永続的な様式」と定義されています。パーソナリティは一般に「人
格」と訳されますが、その他に関連した用語として、性格(character)や気質
(temperament)があります。性格は、パーソナリティに含まれる概念であり、
個人の特徴的にみられる行動様式の一貫性や安定性のことを指します。気質は、パーソナリティのうちの生得的側面を表す概念であD、比較的幼少の頃から生
じる情緒反応や行動様式を指します。
パーソナリティ研究は、1930年頃より概念的枠組みが出来上がり、類型論と特性論に大きく分けることができます。類型論は、パーソナリティをいくつかの典型的な類型に分類し、個々人のパーソナリティを類型に当てはめることで記述しようとする立場です。その代表となるのが、クレッチマー(Kretschmer,E.)の気質類型論です。クレッチマーは精神医学を背景に8000を越える症例を基に身体的特徴からパーソナリティをいくつかの典型的な類型に分類しました。クレッチマーの類型論の他に、健常者を対象にしたシェルドン(Scheid。n,W.H.)の身体類型論や、心理的な特徴で分類したシュプランガー(Spranger,E.)の価値類型論、ユング(Jung,C,G,)の性格類型論などがあります。
一方、特性論は、パーソナリティを多数の特性の集合と考え、個々人のパーソナリティを測定された特性の総和として記述する立場です。類型論はドイツを中心に研究が行われましたが、特性論はアメリカを中心に研究が行われ、オールポート(AIIport,G.W.)の研究が始まりです。オールポートは人間のパーソナリティ特性を表す言葉を辞書から選んで整理分類し、個人に特有な個別特性と多数の人に共通して見られる共通特性に区別しました。その後、パーソナリティ研究の対象は個性記述的な個別特性ではなく、法則定立的に捉えることのできる共通特性が中心となりました。そのため、キャッテル(Cattell,R.B.)やアイゼンク(Eysenck,HJ.)は、因子分析などの統計的技法を用いて、より科学的にパーソナリティの共通特性を抽出する研究を展開しました。こうして確立した特性論の理論は、質問紙法による心理検査の理論的基盤を提供することになりました。1960年代以降になると、パーソナリティ特性の基本となる因子を導こうとする研究が盛んになりました。数多くの研究から、パーソナリティ特性は5つの因子に包括的に説明できるという説や理論が提出され、それらは総称してビッグファイブモデル(big-five model)と呼ばれています。
類型論【personality typology】多様な個性を分類、カテゴリー化をすることで典型的なパーソナリティタイプを設定し、それらのタイプに当てはめてパーソナリティを理解しようとする理論。一定の法則を基に構成され、その特徴が明確化されていることから、パーソナリティを直観的に全体的に把握するのに適している。しかし、パーソナリティを少数のタイプに分類するため、中間型が捉えにくく、また固定的に考えるため、個人差や個性は無視される。
特性論【personality trait theory】 一貫して出現する行動傾向やそのまとまりをパーソナリティの構成単位と見なし、各特性の組合せによって個人のパーソナリティを理解しようとする理論。パーソナリティ特性の抽出に統計的手法が用いられ、特に因子分析を導入したことにより大きく発展した。類型論のように中間型が無視されることはない。しかし、パーソナリティ特性の組み合わせを重視するために、直感的に全体像が理解しづらい。また、測定できる特性は統計的に無数に存在するため、全てを捉えてパーソナリティを記述することは不可能とされる。
クレッチマーの気質類型論【Kretschmer's typology】精神医学者のクレッチマーにより提唱された、3つ体型を分類基準とし、体型ごとに精神疾患を結びつけて構成した類型論。細身型/分裂気質(lept。somic type/schiz。thymia)は、非社交的、過敏で神経質であり、統合失調症の病前性格と考えられている。肥満型/循環気質(pyknictype/cyclothymia)は、社交的で素直であり、活発でユーモラスだが激高しやすい時と、不活発で寡黙な時が循環しており、躁うつ病の病前性格と考えられている。闘士型/てんかん(粘着)気質(athletictype/visc。sitytemperament)は、頑固で生真面目であり、執着心が強く、時に爆発的激怒が見られ、てんかんの病前性格と考えられている。この類型論には、中肉中背が分類に当てはまらないことや精神疾患の分類を健常者にも当てはまる根拠がないという批判がある。
シェルドンの身体類型論【Scheldon typologyof constitution】クレッチマーの類型論が実証性に乏しかったため、健常者の体型計測を基に発生学的な名称を用い、生得性を強調した類型論。内胚葉型/内臓緊張型は、体型は柔らかで丸く、消化器官の発達が良く、クレッチマーの肥満型(循環気質)に相当する。姿勢と動作がゆったりしていて鈍重で、外向的で人当たりが良い。中胚葉型/身体緊張型は、筋肉・骨格の発達が良く、重量感のある体型で、クレッチマーの闘士型(粘着気質)に相当する。リスクのある冒険的な行動を好み、時に攻撃性を見せることもある。外胚葉型/頭脳緊張型は、中枢神経系の発達が良く、クレッチマーの細長型(分裂気質)に相当する。控えめで過敏であり、感情表現に乏しく、対人恐怖症(社会不安障害)の傾向が見られることもある。この類型論はかなり恣意的に分類が行われており、現在においても実証性が認められていない。
シュプランガーの価値類型論【Spranger's dimensionsof value type】シュプランガーが提唱した、文化的な生活領域における価値志向性(生活主題)を基に6つに分類した類型論。価値志向性とは、人生や社会の中で何を目指すべき理想とするか、何に強い魅力や高い価値を感じるかということである。理論型は、論理的な思考を重視し、他者に対する思いやりや共感に乏しい。経済的利害に関する興味もあまりないので、社会適応は一般によくない。経済型は、経済的な利益に最大の価値を置き、功利的な損得勘定で物事を判断しようとする。利己主義的な行動が多く、他人へ共感は弱く、一般に合理的で効率的な行動を好む。審美型は、美と調和を重視し、繊細な感受性と豊かな感情を持つ。美的関心で物事を判断するため、経済的な損失や対人的な不利益を受けることも多い。権力型は、権力の獲得に強い関心を持ち、他者を支配したり指導したりすることに価値を見出だす。アドラーの劣等性の補償の機制に関連がある。他者への共感性や美的感覚の追求などの、他者との相対的な優劣が明らかでない事柄には魅力を感じない。宗教型は、宗教的な活動や神秘的な超越体験に惹かれ、世俗的な価値観に左右されることがない。道徳的な生活態度と敬虚な信仰生活によって、世俗的な快楽を超越した永遠普遍の幸福や安楽が得られると信じている。欲求を抑えて他者への協力や帰属集団への奉仕をすることに喜びを感じるため、社会適応性に非常に優れている。しかし、個人活動に興味関心を見出だすことが苦手で、孤立することを非常に恐れる。
ユングの性格類型論/タイプ論【Jung's typology】内向・外向という心的エネルギー(リビドー)の2つの方向と、4種類の精神機能の類型(思考・感情・感覚・直感)を組み合わせ、8種類のパーソナリティを定義した類型論。そのため、この類型は、「外向(内向)-思考型、外向(内向)-感情型、外向(内向)-感覚型、外向(内向)-直感型」というように表記になる。外向性と内向性の違いは、リビドーが自我の外部に向かうのか、内部に向かうのかというリビドーの志向性の違いである。外向型とは自分の関心がおもに外側に向いている人のことであり、社会や環境に興味があり、環境適応が早い。内向型とは、関心が内面に向いている人であり、内界の主観的要因に関心が向く。思慮深く、周りの意見に左右されない。精神機能とは、外界の情報を把握する際に主として活用する機能を主要機能、その他の機能を劣等機能とし、何かを感じ取って理解する機能(主要機能)がどれに該当するかによって類型したものである。4つある精神機能のうち、思考とは知性によって物事を一貫的に捉える機能、感情は好き嫌いで物事を捉える機能、直観は物事の背後の可能性を知覚する機能、感覚は生理的刺激による知覚し判断する機能のことである。ユングは、人間の精神機能には過剰な外向性。内向性の偏りや一方的な思考・感情・感覚・直感による判断を無意識的に修正する働きがあると考え、この意識と無意識のバランスを保とうとする心理機制のことを補償(c。mpensati。n)と呼んだ。
オールポートの特性論【Allport'sotrait theory】パーソナリティの特性を他の人と比較できないような特性(個人特性)と他の人にも見られる特性(共通特性)に分類し、個々人のパーソナリティはその多少によって形成されるとした理論。この2つの特性は、辞書にある1800ほどの形容詞を、行動の動機となる特性、性格の核となる特性、表象に現れる特性という3つのレベルから分類し抽出した。この方法理論は、後の心理査定法における質問紙法の礎となった。
キャッテルの特性論【Cattell's trait theory】パーソナリティを16因子の特性から構成されるとした理論。個人の性格史の分析、質問紙による自己評価、特定状況の客観テストの4種類の方法を用い、観察可能な表面特性を測定し、因子分析によってその背後にある根源特性を抽出し、12の因子が抽出されたが、後の研究で4つ特性が加えられた。それに基づき、キャッテル16因子質問紙(16PF)が作成されている。
アイゼンクの特性論【Eysenck'personality trait the。ry】パーソナリティを個別的反応、習慣的反応、特性、類型の4つの層構造から成るとした、類型論と統計学的手法との組み合わせによる特性論。精神医学的診断、質問紙、客観的動作テスト、身体的差異の4つの方法で測定したもの因子分析によって外向一内向と神経症的傾向という2因子を見出し、類型とした。その後、精神病的傾向を加え、3類型とした。個人に特有の行動様式である特殊反応が、様々なかたちで繰り返されると習慣反応になり、これらが集まることによって特性因子となり、さらに特性因子が体系化されたものが類型である。上述の内向性一外向性の因子、神経症的傾向の因子は、MPI(Maudsley
Personalitylnvent。ry)の基礎となっている。
ビッグファイブモデル/主要5因子【big-five model】ゴールドバーグ(G。ldberg,L
R.)によるもので、性格を神経症傾向、外向性、開放性、調和性、誠実性といった5つの次元に分けるモデルのこと。性格特性5因子モデルともいう。キャッテルの根源特性やアイゼンクの特性などを基に、質問紙調査によって測定されたデータに因子分析を繰り返すことで基本的パーソナリティの次元を導こうと試みた研究から得られた。1960年代以降、パーソナリティ特性は5因子にまとめることが可能という結果が多数の研究から発表された。研究ごとに各因子の命名は異なるが、内容的には共通したものが多い。コスタとマックレー(C。sta,P.T.Jr.&McCrae,R.R.)が開発したNE。-Pl-R(RevisedNE。 Personality lnvent。ry)では、5因子として、神経症傾向(neuroticism:N)、外向性(extraversi。n:E)、開放性(。penness;0)、調和性(agreeableness;A)、誠実性(c。nscienti。usness;C)を挙げている。それぞれの因子には6つの下位次元があり、1つの下位次元には8つの評定項目が含まれる。
--豆知識--
クレッチマーの循環気質の類似した概念に、下田光造によって提唱された執着気質(immodithymic character)があります。この気質は躁うつ病の親和的であり、仕事熱心、几帳面、正直、凝り性、強い責任感や正義感などのパーソナリティ特性があります。この特性の本質は体質に基づく感情興奮性の異常にあります。知らず知らずのうちに感情的疲労状態に陥り、躁またはうつ状態を発すると考えられています。
--豆知識--,
うつ病の親和性格については、テレンバッハlによるメランコリー型性格(melanch。lic type)の概念が有名です。メランコリー型性格は、几帳面、対他配慮、秩序を重視するとった特性があります。そのため、転勤や家族構成の変化、身体疾患などの人生の転機で秩序性が乱されると、どうにか安定を回復しようと悪戦苦闘します。この性格の人がうつ状態を呈するのは、秩序が崩壊し、安定回復とその維持が困難な状況に追い込まれたときです。この状況は前うつ状況と呼ばれることがあります。
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-記憶と脳-
記憶と脳.1 大脳皮質と大脳辺縁系
人間の脳を大きく二つに分けると大脳皮質と大脳辺縁系とに分かれます。また、脳を6つの部分に分けると大脳半球、間脳、中脳、小脳、橋、延髄に分けることができます。
大脳皮質は、前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉の4つの領域に区分され、脳の前方にある前頭葉には、思考の統合、記憶、知的活動、感情、判断、計画、人格を司る機能が存在し、ブロー力野と呼ばれる運動性言語中枢があります。また、脳の頂上に位置する頭頂葉は、体性感覚機能や空間情報の処理を司る機能が存在します。後頭葉は脳の後部に位置し、視覚を司っています。側頭葉では、聴覚を司っているほか、ウェルニッケ野と呼ばれる感覚性言語中枢が存在します。
大脳皮質は新皮質とも呼ばれますが、それに対し旧皮質を含んだ大脳辺縁系は発生的に古いといわれており、扁桃体や海馬、帯状回といった情動や本能的行動に関連する脳の領域があります。小脳には姿勢を調節する中枢があり、体のバランスを保つために必要な部位です。アメリカのパペッツ(Papez,J.W.)は、帯状回の興奮によって、海馬体、乳頭体、視床前核を経た後、帯状回へ刺激が戻るという回路を想定し、パベッツの回路と呼ばれています。
間脳と中脳、橋、延髄を合わせて脳幹と呼び、基本的な生命活動を維持しています。間脳には、意識や情動、運動、感覚の中枢である視床や、自律神経系の中枢で情動や本能、代謝や体温の調節を行う視床下部があります。中脳では、視覚や聴覚の情報を処理し、その刺激による反射を司っています。橋は、大脳や脊髄と小脳の連絡を行っており、延髄は呼吸や循環器、消化器など生命維持に重要な中枢です。
脳を左右に分けると、左脳と右脳に分けることができ、その間をつないでいる部分を脳梁と呼びます。左脳は、身体の右半分の運動・知覚を支配しており、論理的思考、言語、計算、会話などを司っています。それに対して右脳は、身体の左半分の運動・知覚を支配しており、イメージ、音楽、図形、表情などを司っています。脳梁は、左右の脳の情報を互いに伝達するために必要な部位です。ロジャー・スペリー(Sperry,R.W.)は、てんかん患者の脳梁を切断した分離脳研究を行い、左右半球の機能が分かれているということを明らかにしました。
触覚や聴覚、視覚、運動などの刺激は、左右逆の脳へ信号が送られ、特に右視野に入った情報が左脳に伝達され、左視野に入った情報が右脳に伝達されることを視交叉と呼びます。
ペンフィールド(Penfield,W.G.)は、脳の各部位と全身の運動や感覚がどのように対応しているかについて、てんかん患者の手術の際に脳に直接電極を当てた患者の反応を観察しました。それを図に起こしたものを、ペンフィールドの脳地図と呼びます。その他に有名な手術としては、前頭葉を脳の他の部分から切り離すロボトミーがあります。ロボトミーを行ったモニス(moniz, E.)には、1949年ノーベル生理学・医学賞が授与されましたが、副作用の大きさや向精神薬の発展などによって廃れていきました。
大脳皮質【cerebral c・rtex】大脳の表面に広がる灰白質の薄い層のこと。大脳基底核という灰白質を覆っており、前頭葉・頭頂葉・後頭葉・側頭葉からなる。
大脳辺縁系【limbic system】脳のうち情動、意欲、自律神経などに関係する部分。大脳辺縁系には扁桃体や視床下部、乳頭体、側坐核が含まれている。
大脳半球【cerebral hemisphere】大脳の一部で、左右の半球状の部分。大脳の表面のほとんどを覆っており、その表面に大脳皮質が存在する。
前頭葉【frontal lobe】思考の統合、記憶、知的活動、感情、判断、計画、人格などを司る脳の前部の領域のことであり、実行機能という能力を持っている。なお、アルツハイマー病では、この部位に委縮がみられることが知られている。
ブローカ野【Broca's area】運動性言語中枢とも呼ばれ、発話などの音声言語、手話などの算出や理解に関係している。この部位に損傷を受けるとブロー力失語となり、発話などができなくなる。
頭頂葉【paoietal lobe】さまざまな感覚モダリティからの感覚統合に関係する部位で、数字や対象の操作に関する機能を持つ。
後頭葉【。ccipital lobe】後頭部1こ位置する視覚を司る部位。
側頭葉【temp。ral lobe】側頭部1こ位置する聴覚を司る部位。ウエルニツケ野と呼ばれる感覚性言語中枢が存在する。
ウェルニッケ野【Wernicke's area】感覚性言語中枢とも呼ばれ、言語理解に関係する中枢。聴覚野を囲むように存在し、シルヴィウス溝に接する。この部位に損傷を受けるとウェルニッケ失語となり、耳で聞こえたことを理解することができなくなる。
扁桃体【amygdala】情動反応の処理と記憶について主要な役割を持つ。
海馬【hipp。campus】記憶や空間学習能力に関わる部位。 PTSDやうつ病患者では委縮がみられる。
帯状回【cingulate gyrus】大脳の内側面で脳梁の辺縁にある脳回.感情の形成と処理、学習、記憶、呼吸器系の調整などと関わりがある。
小脳【cerebellum】姿勢を調節する中枢があり、体のバランスを保つために重要な役割を担う。
パペッツの回路【Papez circuit】アメリカのパペッツ(Papez,J.W.)により考えられたもの。帯状回の興奮によって、海馬体、乳頭体、視床前核を経たあと、帯状回へ刺激が戻るという回路。
脳幹【brainostem】間脳と中脳、橋、延髄を合わせた部位で、基本的な生命活動を維持しており、睡眠、覚醒レベルの調節、姿勢運動抑制も行っている。本能行動や情動行動の運動性出力経路でもある。
間脳【interbrain】視床や視床下部のある部位のこと。
視床【thalamus】意識や情動、運動、感覚の中枢。
視床下部【hyp。thalamus】自律神経系の中枢で情動や本能、血圧、代謝や体温、日内リズムの調整を行う部位。大脳皮質からの指令なしで常に身体の状態を保っており、体温、血圧、心拍数など身体の状態を安定させるホメオスタシスを担っている。
中脳【midbrain】視覚や聴覚の情報を処理し、その刺激による反射を司っている。
橋【P。ns】大脳や脊髄と小脳の連絡を行っている。
延髄【medulla 。blongata】呼吸や循環器、消化器など生命維持に重要な中枢。
脳梁【c。rpus callosum】左右の大脳皮質の間を連絡する交連線維の集合で、脳の正中矢状断で帯状回の下に位置し、前後に長い鎌状を呈している。
左脳【left semisphere】身体の右半分の運動・知覚を支配しており、論理的思考、言語、計算、会話などを司っている。
右脳【right semisphere】身体の左半分の運動・知覚を支配しており、イメージ、音楽、図形、表情などを司っている。
ロジャー・スペリー【Sperry,R.W.】てんかん患者の脳梁を切断した分離脳研究を行い、左右半球の機能が分かれているということを明らかにした。
視交叉【。ptic chiasma】触覚や聴覚、視覚、運動などの刺激は、左右逆の脳へ信号が送られ、特に右視野に入った情報が左脳にいき、左視野に入った情報が右脳にいくこと。
ペンフィールドの脳地図【Penfield brain map】脳の各音B位と全身の運動や感覚がどのように対応しているかについて、てんかん患者の手術の際に脳に直接電極を当てた患者の反応を観察した。それを図に起こしたもの。
ロボトミー【10b。t。my】モニス(moniz, E.)がはじめて行った、前頭葉を脳の他の部分から切り離す手術。うつ病や不安神経症に対し有効とされ、後に統合失調症に用いられるなど画期的な治療法とされていたが、非人道的という理由で行われなくなった。
--豆知識--
ブロー力野に損傷を受けた人は、ブロー力失語になり、運動性言語中枢という発話に関わる部位がやられるため、言葉を聞いて理解はできても発することができなくなります。一方でウェルニッケ野に損傷を受けた人は、感覚性言語中枢という聴取に関わる部位がやられるため、話を聞いて意昧を理解することができなくなりますが、それと同時に発話も阻害されてしまいます。
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記憶と脳.2 記憶と神経系・脳波と睡眠
記憶のプロセスとして、記銘(符号化;enc。ding)、保持(貯蔵;st。rage)、想起(検索:retrieval)があります。記憶は保持される時間の長さから長期記憶、短期記憶、感覚記憶に分類されます。短期記憶の中でも、特に計算や読書など作業をする際に一時的に蓄える記憶を作動記憶(作業記憶)と呼びます。タルヴィング(Tulving,E.)によると、長期記憶は辞書的な意味を覚える意昧記憶と、特定の経験に関するエピソード記憶に分けられ、これらは合わせて宣言的記憶と呼ばれます。宣言的記憶に対して、想起するときに意識を伴わない手続き記憶があるといわれています。特に想起するときに意識を伴わないが、行動などに表れる記憶を潜在記憶と呼び、それ以外の記憶のことを顕在記憶と呼びます。
脳や脊髄が属する中枢神経系に対し、末梢神経系には知覚や運動を制御する体性神経系と、内臓や血管などの自動制御を行う自律神経系とがあります。自律神経は、興奮時に優位になる交感神経と、鎮静時に優位になる副交感神経があります。
人間をはじめとした動物の脳は電気活動を行っており、それを電極によって記録したものを脳波と呼びます。脳波は、成人の安静時や覚醒閉眼時に出現するα波、精神的緊張時に出現するβ波、乳幼児期や成人の深い眠りの際に出現するδ波やθ波(徐波)があります。てんかん患者の脳波には棘波と呼ばれる突発性脳波異常が見られます。
睡眠時は、まず安静閉眼時にα波が出現し、睡眠の第一段階では不規則な脳波がみられます。睡眠の第二段階では睡眠紡錘波が出現し、睡眠の第三段階ではδ波にθ波が混じってきます。さらに睡眠の第四段階ではδ波が50%ほどを占め、逆説睡眠とも呼ばれるレム睡眠へと移行します。レム睡眠とは、高速眼球運動を伴う浅い睡眠状態のことを指し、体性神経系や自律神経系の機能は低下し「身体の眠り」といわれます。20分ほどのレム睡眠時に夢を見ることが多く、レム睡眠が終わると、ノンレム睡眠という「脳の眠り」といわれる睡眠状態へと移行します。ノンレム睡眠の時期に脳が休むごどで熟睡状態となります。
記銘【enc。ding】符号化とも呼ばれ、なんらかの情報を覚えること。
保持【st。rage】貯蔵とも呼ばれ、記銘によって覚えた情報を保存すること。
想起【retrieval】検索とも呼ばれ、記銘・保持を行った情報を思い出すこと。想起には、以前の経験を再現する再生、以前と同じ経験を確認する再認、以前の経験を要素の組み合わせで再現する再構成などがある。
長期記憶【1。ng term memory】長期1こわたり持続する記憶のことで、短期記憶と対をなす。感覚記憶や短期記憶が、言語・イメージなどに変換され、記憶のネットワークに組み込まれることで長期記憶となる。長期記憶は、宣言的記憶と手続き記憶に分けられる。
短期記憶【sh。rt term memory】長期記憶に対して、短期的に保持される記憶のこと。短期記憶の容量には限界があるとされるが、繰り返し記憶を呼び起こすことによって長期記憶へと移行される。短期記憶の中でも、情報処理能力を含める意味で、作動記憶、作業記憶、ワーキングメモリーとも呼ばれる。
感覚記憶【sensory memory】意識には上らない感覚器官によって瞬間的に保持された記憶のこと。
マジカルナンバー ひとが一度に把握し操作できる情報は、約7±2個といわれており、その7という数字をマジカルナンバーと呼ぶ。
作動記憶(作業記憶;ワーキングメモリー)【w。。king memory】情幸侵を一時的に保って何かを操作するために使う記憶を表す構成概念のこと。
意味記憶【semantic memory】単なる言葉の意味についての記憶のこと。
エピソード記憶【episodic memory】個人白勺な体験や出来事についての記憶のこと。
宣言的記憶【declarative memory】長期記憶の一種で、事実と経験を保持するもの。意識的に議論したり、宣言したりすることができる内容の記憶のため、宣言的記憶と呼ばれる。
手続き記憶【procedural memory】時間の経過とともに認知レベルでも行動レベルでもさまざまなな活動をしている過程における変化、言い換えれば情報処理過程の記憶のことをいう。同じ目標に向かう過程における情報処理様式は、繰り返すことにより次第に一定のパターンを形成するようになり、頑健な手続き記憶になり、これが一般的にスキルと言われるものである。
潜在記憶【implicit memory】想起しようとする意識なしで、ある行動や判断をする時に用いる記憶。
顕在記憶【。xpli。it memo。y】想起しようとして、すぐに思い出すことのできる記憶。
中枢神経系【central nervous system】神経系のうち、多数の神経細胞が集まっている領域で、脳と脊髄がこれに含まれる。
末梢神経系【peripheral nervous system】神経系のうち、中枢神経系(脳・脊髄)以外の体性神経系や自律神経系に分けられる。
体性神経系【somatic nervous system】自律神経系とともに、末梢神経系と呼ばれる。体性神経系には感覚神経と運動神経とがあり、知覚や運動を制御する。
自律神経系【aut。nomic nervous system】内臓や血管の自動制御を行う神経系。自律神経には興奮時に優位になる交感神経と、鎮静時に優位になる副交感神経とがある。
交感神経【sympathetic nervous system】自律神経系の一つで、「闘争か逃走か(Fight 。r Flight)反応」と呼ばれるように、激しい活動を行っている興奮時に活性化するもの。
副交感神経【paoasympathetic nervous system】自律神経の一つで、鎮静時に優位になるもの。
脳波【electroencephalogram;EEG】ヒト・動物の脳に生じる電気活動を電極で記録したもの。脳波には、a派、β派、δ波、θ波、棘波などがある。
α波【alpha wave】安静時や覚醒閉眼時に出現する脳波で、周波数は8Hzから13Hzである。睡眠時の第一段階、まどろみ状態に出現する。
β波【beta wave】精神緊張時に出現する周波数14Hz以上の脳波。30トlz以上になるとγ(ガンマ)波と分類することもある。
δ波(デルタ)【delta wave】乳幼児期や、成人の深い眠りの時期に出現する周波数が1Hzから4Hzで高振幅の脳波。ノンレム睡眠時に最も多くみられる。
θ波【theta wave】徐波とも呼ばれ、乳幼児期や成人の深い眠りの時期に、δ波とともに出現する。周波数は4Hz-8Hzである。α波が徐波化して出現する場合は後頭葉優位であり、傾眠時は側頭葉優位に出現する。
棘波(きょくは)【spike】てんかん患者に見られる月函波で・周波数だけでみることができないため、波形によって分類する。便宜上持続が20〜70msの波を棘波、70〜200msの波を鋭波という。
睡眠紡錘波【sleep spindle wave】ノンレム睡眠時に見られる周波数12〜14Hzの脳波で、紡錘の形に似ている脳波。睡眠の第二段階で出現する。
レム睡眠【rapid eye movement sleep/REM sleep】睡眠状態のひとつで、身体が眠っているが、脳が活動している状態。高速眼球運動のほか、身体はほとんど動かないが、脳波はθ波が優勢で覚醒時と同様の振幅を示す。外見的には寝ていても、脳が覚醒状態にあるため、逆説睡眠ともいわれる。
高速眼球運動【rapid eye movement】急速眼球運動ともいわれる。レム睡眠時にみられる急速な眼球運動のこと。このときに夢を見ているともいわれる。
ノンレム睡眠【non-REM sleep】高速眼球運動を伴わない睡眠のことを、ノンレム睡眠といい、徐波睡眠とも呼ばれる。入眠時にはノンレム睡眠が現れ、約1時間半ほどでレム睡眠に移行する。その後、ノンレム睡眠とレム睡眠が交互に現れ、レム睡眠は、ほぼ1時間半おきに20〜30分続く。一晩の睡眠では4〜5回のレム睡眠が現れるといわれる。
--豆知識--
作業記憶は、WAIS-Vなどの検査で能力を調べますが、作業記憶のような短期記憶が苦手であっても、長期記憶に関連する知識は高い人も多く、短期記憶と長期記憶が直接的な因果関係・相関関係などがないことがわかります。
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